ムコ多糖症の治療法について

ムコ多糖症の治療法は?
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター ライソゾーム病センター長 奥山虎之

ムコ多糖症の治療法には、対症療法と根治的療法とがあります。

対症療法

中耳炎に対するTチューブ挿入、無呼吸に対するアデノイド除去、角膜混濁に対する角膜移植、心疾患に対する弁置換術、誤嚥の予防などがあります。そのため、ムコ多糖症の患者様は小児科だけでなく、耳鼻咽頭科、眼科、整形外科、小児外科などの外科系診療科のフォローも必要です。感冒を早期に治療し、中耳炎をなるべく悪化させないよう積極的に治療し、補聴器、眼鏡などで補正し、適切なリハビリを受けることにより、成長発達の促進に向け働きかけることが可能です。このページの先頭へ戻る

ムコ多糖症の治療法の原理

多くのライソゾーム酵素はマンノース-6-リン酸(M6P)残基をもち、細胞膜表面に存在するM6P受容体に結合した後、細胞内に取り込まれ、さらにライソゾーム内に輸送されます。ムコ多糖症ではこの輸送系を利用して、欠損している酵素を体外から補充することにより、細胞膜表面から細胞内そしてライソゾーム内に酵素を輸送し、ライソゾーム内に蓄積しているムコ多糖の分解を促進し、症状の改善を図ります。この原理を用いて種々の根治療法(酵素補充療法、造血幹細胞移植)が可能となっています。

酵素補充療法

酵素補充療法は、欠損している酵素を製剤として体外から補充することにより、細胞外から細胞内そしてライソゾーム内に酵素を輸送し、ライソゾーム内に蓄積しているムコ多糖を分解する方法です。1週間に1回、酵素製剤を4,5時間かけて点滴します。欧米の治験データでは、尿中グリコサミノグリカンが減少し、肝脾腫、呼吸機能、歩行試験、関節可動域に改善が認められました。しかし、中枢、骨、関節、心臓弁、角膜には効果がなく、今後の課題といえます。

欧米では2003年にI型治療薬ラロニダーゼ(Aldurazyme(R):バイオマリン/ジェンザイム社)、2005年にはVI型治療薬ガルサルファーゼ(NAGLAZYME(R):バイオマリン社)、そして2006年にはII型治療薬アイドロサルファーゼ(ELAPRASE(R):シャイアー社)が承認され、2014年にはⅣ型A治療薬エロスルファーゼ アルファ(バイオマリン社)が承認されました。

日本では、I型治療薬が2006年10月20日に承認され、サノフィ社(旧:ジェンザイムジャパン社)から「アウドラザイム」という商品名で販売されています。

II型治療薬は、2007年10月4日に承認され、サノフィ社(旧:ジェンザイムジャパン社)から「エラプレース」という商品名で販売されています。また2021年1月22日に承認され、クリニジェン株式会社から「ヒュンタラーゼ脳室内注射液15mg」という商品名で販売がされています。2021年3月23日に承認され、JCR社から「イズカーゴ」という商品名で販売がされています。

VI型治療薬は2008年3月に承認され、アンジェス社から「ナグラザイム」という商品名で販売されていました。
現在はアンジェス社からBioMarin Pharmaceutical Japan株式会社に変更になっております(2023年1月現在)。
なお、現在Ⅳ型A治療薬は2014年12月に承認され、BioMarin Pharmaceutical Japan株式会社から「ビミジム」という商品名で販売されています。

造血幹細胞移植

造血幹細胞移植は骨髄移植および臍帯血移植の2種類が行われています。移植された正常な造血幹細胞を、ムコ多糖症患者の体内に移植して、その正常細胞が分泌する酵素を細胞膜表面のM6P受容体を介して、ライソゾーム内に輸送することにより、ムコ多糖の分解を促進します。移植の結果が良好であれば肝脾腫、呼吸機能、関節拘縮などに改善がみられ、QOLが向上します。しかし、中枢神経、角膜混濁、心臓弁、骨変形には効果がなく、今後の課題です。酵素補充療法のような定期的かつ頻回の治療を回避できるという利点があります。しかし、生着不全や移植片対宿主病(GVHD)などの重篤な副作用が起こる場合があり、治療の適応は限定されます。

遺伝子治療

欠損酵素を発現する遺伝子を細胞内に導入する方法が遺伝子治療です。ライソゾーム病、特にムコ多糖症は遺伝子治療が適している疾患とされ、最近、フランスでIII型を対象として人への臨床試験が計画されています。

遺伝子治療は、本質的には自己の細胞を修飾する方法なので造血幹細胞移植のような重篤な副作用や免疫抑制剤のリスクを回避することが可能といえます。また、適切な方法を選択することにより、長期的な導入遺伝子の発現も可能となることから、酵素補充療法のような定期的かつ頻回の治療を回避できるという利点もあります。しかし、いまだ完全に安全な方法として確立されているわけではないので、今後の研究が期待されます。このページの先頭へ戻る

以上のように、ムコ多糖症の治療法開発は急速に進展していますが、しばらくは対症療法を中心とした包括的な医療を受けることが重要です。

また、早期発見のためのマススクリーニング法の開発や、適切な遺伝カウンセリングのもとで行われる遺伝子診断・保因者診断および出生前診断への応用に関する体制作りも治療法開発とともに整備すべき重要課題です。

早期発見し、適切な対症療法での早期治療を受けつつ、酵素補充療法、造血幹細胞治療、遺伝子治療などの治療法を組み合わせた副作用のない適切な治療プロトコールを確立していくことが、将来的には必要となってくると考えます。

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