ムコ多糖症とは?
大阪市立大学医学部附属病院小児科 田中あけみ

ムコ多糖症は先天性の代謝疾患であり、細胞の中で「ライソゾーム(リソゾームとも言う)」の機能が一部欠損しているため、「ライソゾーム病」に分類されます。
生まれつき、ライソゾームにある「ムコ多糖」と言う物質を分解する酵素が欠損しており、ムコ多糖を分解することが出来ません。このため、分解されないムコ多糖が体内に蓄積することで様々な障害を引き起こし、病形によっては命を脅かします。 詳細については、下記に示します。

1. 病態

wmuko1私たちの体は約60兆個の細胞からできています。細胞は、生命の最小単位で大きさは細胞の種類によってさまざまですがヒトの白血球は14マイクロメートル(1μmは10-6 メートル)です。細胞の外側は細胞膜に覆われ、中心に核があり、核以外の部分を細胞質という。細胞質には核以外にも、細胞小器官(オルガネラ)とよばれるミトコンドリア・ゴルジ体・小胞体・リボソーム・リソソーム(ライソゾーム)などの構造体があります。

前述した核から出される情報に従って、細胞質で外界から取り込まれた物質分子をエネルギーに転換したり、自分の体を作る物質に作り変えたりします。核には生物が存在して生きていくためのすべての情報が詰まっています。この情報を遺伝情報と呼び、ひとつの遺伝情報をひとつの遺伝子が担っています。ヒトは22000個の遺伝子の遺伝情報から作られています。

細胞の細胞質には、ライソゾームという小さな袋のようなところがたくさんあります。これは、いらなくなった老廃物を分解するところです。つまり、分解設備をもったゴミ箱のようなところです。この中には、当然、いろんな分解酵素が備え付けられています。だから、いろんな種類のいらなくなった物質を分解してしまうことができます。この中の分解酵素の一つの遺伝子に傷が付くと、働けなくなったり、働きが悪くなると、ライソゾーム病という病気になります。ですから、ライソゾーム病はたくさんの種類があります。酵素の数だけ病気の種類が存在すると考えてよいでしょう。

ムコ多糖症は、このライソゾームに備わっている酵素のうち、古くなったムコ多糖を分解する酵素が生まれつき欠損しています。すなわち、ムコ多糖の分解酵素の一つの遺伝子に傷が付いてしまっているのです。ムコ多糖を分解するだけでもいろんな酵素が必要です。ですから、欠損している酵素の種類それぞれによって病気の型がいろいろあるのです。症状も少しずつ違います。一般的に、全身臓器の細胞に分解されないムコ多糖が蓄積し、細胞のライソゾームはこの蓄積のため膨れ上がってきます。その結果、いろんな臓器が肥大し、細胞は機能障害を起こして次第につぶれていきます。だんだんと蓄積が起こってくるため、赤ちゃんのときは正常に見えますが、年齢が進むにつれて症状が次第に明らかになってきます。重症型では、症状が現れてくる年齢も早く、病気の進行も急速です。軽症型では、症状が現れる年齢が遅く、ゆっくりと進行します。

ムコ多糖症は、遺伝性の病気です。遺伝の形式は、II型だけが伴性劣性遺伝(X連鎖性劣性遺伝)、そのほかの型は全て常染色体性劣性遺伝です。常染色体性劣性遺伝では、両親が共に保因者であったときに、初めて病気の子供が産まれます。片親だけが保因者であっても病気の子供は産まれません。病気の子供が産まれる確率は、4人に1人です。男の子、女の子ともに同じ頻度で産まれます。伴性劣性遺伝では、母親が保因者であったときに男の子の2人に1人の確率で病気の子供が産まれます。女の子は病気にはなりません。しかし、女の子の2人に1人が母親と同じ保因者になります。

2. 病型

欠損している酵素の種類や蓄積するムコ多糖の種類、症状によって病型が分けられています。<表>に示します。

<表>の表示

3. 症状

a. ムコ多糖症IH型(Hurler病)、IH/S型(Hurler/Scheie病)、IS型(Scheie病)

α-L-iduronidase欠損により、デルマタン硫酸およびヘパラン硫酸の分解が障害されています。幅広い症状型を示し、重症型のHurler病、中間型のHurler/Scheie病、軽症型のScheie病に分けられています。

Hurler病は、ムコ多糖症全体の中でも重症です。6ヶ月から2歳頃に、肝臓・脾臓の腫大、骨の変形、特徴的な顔貌、関節の拘縮、大きな舌などに気づかれます。1歳以下で、急性心筋障害を呈することもあります。乳児期より、臍ヘルニア、鼠径ヘルニアがよく認めらます。発育は、乳児期の体格はむしろ大きいですが、6ヶ月から8ヶ月以降は発育障害が起こり、身長は100cm程度です。発達は、2歳から4歳をピークとしてその後、後退します。発達障害に加えて、聴力傷害や大きな舌による発音の障害のために言葉の獲得に障害があります。上気道感染、中耳炎が頻回で、騒音性の呼吸、慢性の多量の鼻汁が認められます。1歳までに角膜混濁が認められて進行します。緑内障も起こります。交通性水頭症が起こります。骨のレントゲン像で、頭蓋骨の肥厚、椎骨や肋骨など全身の骨が変形しているのが分かります。閉塞性の呼吸障害、呼吸器感染症、心不全が主な死因です。

Scheie病は、5歳以降に、関節拘縮、心臓の大動脈弁狭窄・逆流、角膜混濁、肝臓・脾臓の腫大などが起こってきます。10歳から20歳の間に診断されることが多いです。特徴的な顔貌、関節の変形や拘縮などを認めますが、低身長の程度は軽く130~150cmになります。知能は正常です。目は、角膜混濁以外に緑内障、網膜変性も起こり、20歳近くなると深刻な視力障害を来します。閉塞性呼吸障害による睡眠時無呼吸もあります。心臓の大動脈弁、僧帽弁にムコ多糖が蓄積するため狭窄・逆流が起こります。死因は、心不全が主です。

今後、酵素治療が普及すると、症状や寿命は変わってくるでしょう。

b. ムコ多糖症II型(Hunter病)

これも、重症型、中間型、軽症型があります。Iduronate sulfarase活性の欠損により起こります。日本人では、最も多い型です。ムコ多糖症I型とよく似たですが、角膜混濁はありません。また、皮膚へのムコ多糖の沈着症状として象牙色の小石を並べたような皮膚の変化が、背部や腕、大腿外側部によく見られます。これは、病気の重症度とは関係なく現れ、経過中に消退することもしばしばあります。

Hunter病重症型は、2歳から4歳の頃に、特徴的なな顔貌、骨変形、関節拘縮、肝臓・脾臓の腫大、知能障害が始まり進行します。Hurler病と似ていますが、進行はやや緩やかで角膜混濁がありません。「言葉の遅れ」や「大きな頭」というのが、最初に気付かれる最も多い症状です。臍ヘルニア、鼠径ヘルニア、中耳炎もよく合併します。眼圧が上昇し、網膜変性が起こってきたりします。慢性の軟便もあります。また、広範囲に蒙古斑を認めることが多いです。閉塞性の呼吸障害や心不全で亡くなることが多いです。

Hunter病軽症型は、5歳から7歳の頃に、骨変形、関節拘縮、低身長に気づかれます。重症型と同様の症状が出現して進行しますが緩やかで、知能障害はありません。身長も130~150cm位になります。聴力傷害、指のしびれ、関節拘縮のため、生活に支障が来ます。脊髄の圧迫による神経障害もあります。20歳頃より、気道狭窄や心不全が進行してきます。

さらに、重症型と軽症型の中間型と思われる患者さんもおられます。今後、酵素治療が普及すると、症状や寿命は変わってくるでしょう。

c. ムコ多糖症III型(Sanfilippo病)

Sanfilippo病は、4つの亜型にわけられます。すなわち、heparan N-sylfatase欠損症(A型)、α-N-acetylglucosaminidase欠損症(B型)、acetylCoA:α-glucosaminide acetyltransferase欠損症(C型)、N-acetylglucosamine 6-sulfatase欠損症(D型)の4つです。白人においてはA型が最も多くB型がそれに次ぎますが、日本人では、B型の方が多いです。C型、D型は、どちらもまれです。臨床症状としては、いずれの亜型においても大変似かよっています。他のムコ多糖症と異なり、重症の脳の神経変性症状が特徴的で、身体症状は軽度です。

2歳から6歳頃に症状が発現します。多動、乱暴な行動、発達の遅れ、粗い毛や多毛が認められます。脳の神経変性症状が急速に進行し、7~8歳までに言葉が出なくなります。言葉の獲得が見られないままに進行する患者さんもあります。多動、粗暴な行動、興奮、不眠などが問題になることが多いですが、薬物によるコントロールは困難です。10歳代になると、睡眠障害、肝脾腫、痙攣発作が見られ、周囲とのコンタクトも消失します。Sanfilippo病は、ムコ多糖症に特徴的な顔貌の異常や関節・骨の変形は非常に軽度であるために、診断が遅れることが多いです。身長も、ほぼ正常範囲です。

多くは20歳代頃に、呼吸器感染症や呼吸不全等で亡くなります。

d. ムコ多糖症IV型(Morquio病)

これも、A型(N-acetylgalactosamine 6-sulfatase欠損症)とB型(β-galactosidase欠損症)とに分けられます。A型が圧倒的に多いです。

臨床的には、骨の変形が特徴的で、ムコ多糖症の中で最も強い骨の変形を示し、身長も100cm前後です。知能は障害されません。角膜混濁もあります。幼児期になって、手足の変形、背骨のゆがみ、短い首、X脚、低身長に気づかれます。背骨が強く変形するために胴が短くなります。手足も関節のところを中心にゆがんできます。関節は、靱帯が弛緩するために、ぐらぐらした不安定な感じになります。頚部の骨の形成不全と頸髄周囲の硬膜の肥厚のために頚部で脊髄が圧迫され、程度が進むと手足の麻痺が起こってきます。

e. ムコ多糖症VI型(Maroteaux-Lamy病)

Maroteaux-Lamy病は、Hurler病に似た身体所見を示しますが、知能は障害されません。N-Acetylgalactosamine 4-sulfatase(arylsulfatase B)の欠損によります。これも、重症型、軽症型があります。

重症型の身体症状はHurler病とよく似ています。大頭、骨の変形、関節拘縮が、すでに1歳頃より認められます。臍ヘルニア、鼠径ヘルニアも多く見られます。発育は、6~8歳頃に停止し、身長は100cm程度です。角膜混濁、肝臓・脾臓の腫大、皮膚の硬化、手足の骨・背骨の変形、心臓の大動脈弁・僧帽弁の肥厚と狭窄が見られます。骨レントゲン像もHurler病とよく似ています。また、Morquio病と同様に頸髄の圧迫による麻痺も出てきます。

f. ムコ多糖症VII型(Sly病)

β-Glucuronidase欠損により起こります。最重症型の新生児型では、胎児水腫として認められ、胎児期または乳児期早期に死亡します。重症型は、Hurler病に似ており、3歳頃までに種々の症状が現れます。知能障害の進行は顕著ではありません。軽症型は、4歳以降に症状が現れ、骨の変形が主な症状で、知能障害も角膜混濁も認められません。末梢血顆粒球中に異常な封入体が見られることがVII型の特徴です。

4. 診断

ムコ多糖症を疑うような症状が認められたら尿のムコ多糖分析を行います。多量の異常なムコ多糖(デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸)の排泄が認められたらムコ多糖症と診断されます。<表>に示すような異常ムコ多糖の種類に従い、酵素診断を行います。早期診断のためのスクリーニング法が研究されています。